2008年07月15日

冷たいコーヒー


「まだ、来ないのかな……」

静かな部屋の真ん中に、湯気がもやもやとたっている。ため息をついたら、それが一瞬揺らぎ、また元に戻る。
2つのマグカップにはコーヒーが入っていて、片方はもう半分しか残っていない。今は夏なのに、コーヒーはホットだ。別にそれほどこだわりはないけど、この湯気の感じが好きだから。

彼はまだ帰ってこない。彼が「ちょっと食べ物調達してくるわー」と言って家を出たのは16分前。何が食べたい?と聞かれたから、ドーナツ、とだけ答えておいた。たしか駅前のミスドはこの時間帯は空いているはず。彼は私の好きなドーナツを買ってきてくれるだろうか。チョコのたっぷりかかったドーナツ。甘くて、これがまたコーヒーの苦味と絶妙に合うんだよな。

……考え事をしていたら、もう25分も立ってしまった。なんで帰ってこないんだろう。心配が胸をきゅっと締め付ける。

知らず知らず体は立ち上がり、玄関のドアを開ける。小走りで駅前に向かう。

「……いた!」

彼はミスドの前のベンチでボーっと座っていた。私が小走りでやってくるのをみると、なんだか申し訳なさそうに笑った。私は少し荒くなった息を落ち着かせながら、彼の隣に座る。

「どうして帰ってこなかったの」

「いや、それがさ……ないんだよね、あれが」

「何が?」

「あのチョコのかかったドーナツ。今品切れしちゃってて。で、今作っているんだって。だから、待ってた」

「そこまで…しなくてもよかったのに」

「でも、俺もちょうどそれ食いたかったんだよ」

彼は照れくさそうに頭をかいた。おとなしく店内でまってればよかったのに。こんなに額に汗をかいて。

結局、私も一緒にドーナツを待つことにした。日差しが暑かったけど、彼と一緒にいれば十分楽しかった。


……あ。

コーヒー、もう冷めちゃったかな。



end.
ニックネーム 由姫 at 21:03| Comment(2) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年07月03日

これって、愛なのかな?


 目の前には、問題集やノートが広がっている。そのうち8割近くは理科であり、あとは数学と少しの英語

「なあ〜やっぱりわからないよ」

ベしゃっとうつぶせになる彼を見て、ため息がでる。

「わからないって言っても、追試はもう逃れられないんだから。もう少しだけがんばろ、ね?」

そう言って励ましてはみるけど、膨れた頬はなかなか空気が抜けない。
彼のふてくされの理由。それは、この前のテストで追試を食らってしまった事だった。彼はそれを知ると、すぐさま私の前に現れた。そして直角に腰を曲げ「俺に勉強を教えてくれ!!」。だと。
 だから今、放課後の教室で教えてあげているわけ。だけど追試を受けるほどあって、なかなか教えた通りに解いてくれない。

「……俺、きっと脳みそが普通の3分の1ぐらいしかないんだよ」

「なに言ってるの?それよりほら、ここプラスとマイナス全部反対」

「えー!」

彼はトンカチで頭を殴られたような滑稽な顔をして――この1時間だけでもう何十回もした顔だけど――ばんざいをした。

「お、落ち着いて、もう一度、解こう?」

作り笑をして、問題集をシャーペンでコツコツと叩いてみせる。
彼はしばらく頭をかいていたけど、突然ニッコリと笑った。

「……?」

「うん、俺、頑張る。お前のこの愛があれば頑張れるさ!」

「は?」

なに言ってるんだろう、彼?



……この言葉の意味と、自分の気持ちに気付くのは、もっともっと先の話。



end.
ニックネーム 由姫 at 21:12| Comment(3) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年06月03日

歩調合わせてよ


「……ちょっと」

「ん?」

あいつは気だるそうに振り返る。

「足、速いんですけど」

ついさっきまで隣で歩いていたのに。あっというまに1メートルの差。
こいつは凄い足が長い。だから、歩幅がありえないほどに大きいのだ。
それに対し私は中肉中背。彼の歩幅に合わせようと大またに歩いても、追いつききれないのだ。

「ああ、ごめんごめん。なんか、つい」

苦笑いしながら私が追いつくまで止まっている。なんか、腹立つな。前からこれ、何回も繰り返すんだもん。

「あのさー」

「何?」

「少しは勉強してくれないかな」

「何を?」

「もう少しゆっくり歩くってこと!」

私が少し怒って彼を睨むと、彼は眉をちょっと傾けて笑った。

「だって、恥ずかしいだろ」

「は?何が?」

「俺達なんか、彼氏と彼女みたいにみえるじゃんか」
 
「え」

硬直。え、そんな風に見える?だったらちょっと嬉しい……って何考えてるんだ私。頭に浮かんだ空想を振り切ってみせる。

「でも、まあいいよ。お前が並んで歩きたいっていうなら。俺はこれからちゃんとあわせるよ」

なんだか憂いをおびた笑顔が胸をきゅっと締め付ける。

「うん…ありがと」


……これからは、私も背をのばす努力をしようかしら。




end.
ニックネーム 由姫 at 20:57| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年05月28日

雨の中、二人

ザバザバザバーー!!!
信じられないほどの土砂降りに、叫びながら近くの公園の木の下に逃げ込むしかなかった。

「イヤー!何で雨なんか降るのー?」

いくら木の下と言えど、葉っぱと葉っぱの間を伝った大粒が、ちらほらと落ちてくる。まだ梅雨入りには早いと思ってたんだけどね。悲惨だよ、悲惨。暑いしジメジメしてるし。

「しらねーよ。さっきから空模様悪かったし、なんとなくわかってたじゃん」

私の隣で彼は、部活用のエナメルバックからタオルを取り出して、空を見上げている。
彼は背が高い。しかも部活ではエース。同じクラスだから、よく前から話してはいた。
でも、一緒に帰ることになったのは、これが初めて。理由は、ほんとに、ちょっとしたこと。他愛もなさすぎて、話したくないほど。

「あ、私もなんか拭くもの――ってあぁぁぁあ!」

ポケットから取り出したミニタオルは、悲しくも、泥でべチャべチャの水溜りへ真っ直ぐダイブ。白いミニタオルが。茶色いミニタオルに。

「う、わ。最悪」

汚くなったミニタオルの端をつまんでいると、肩に長いタオルが軽くかかる。
彼のスポーツタオルだった。心なしか、暖かい。
驚いて彼を見ると、彼は照れ気味に言い捨てた。

「俺はいいから、使えよ」

「え、でも」

「いいから」

自分の髪から雫を落としながら、彼は濡れてしまった眼鏡を取って袖で拭いている。私はそれをじっと見つめていたが、彼が突然「あっ」と言ったため、ビクッと肩を震わせた。

「…言っとくけど、においとか嗅ぐなよ」

「は?何でよ」

「だっ……だって、汗臭いだろうから……」

最後の方はもごもごして聞き取れなかったが、何が言いたいかはよくわかった。コイツ、可愛い奴じゃない?こんなに耳真っ赤にしちゃって。

「わかったよ」

私はタオルで濡れた腕などの雨粒を拭き取る。その様子を、彼は黙って見ていた。

「あ、そうだ」

不意に、思い出すこと。

「続き、やろうよ」

「あーそうだな。まだ、途中だったっけ」

「えーっと確か、『オーストラリア』で止まってたよね」

そう、私達はしりとりをしていたのだ。お互いしりとりの負け知らずを自負するだけあって、もの凄く長引いているけれど。途中で中断するのがあまりに歯がゆかったから、一緒に帰ってきたのだ。

「うーんと、ア…ア…。『アイス』。ほら、次『す』で始まる言葉だよ」

私が言うと、彼は首を傾げ、「『す』で始まる言葉まだあったっけ?」と唸っている。なんだか、こんな時でもしりとりができるなんて、我ながら凄いって感じ。どうして、こんなに自然に彼と一緒にいられるのだろう。

「あ、あった」

「何?」

「好き」

一瞬だけ雨の音が聞こえなくなる。彼の頬が紅く染まっていくのがスローモーションでわかる。私はその瞬間の鼓動に身をまかせ、『き』で始まる言葉を続けた。

「『キミが好き』」




end.
ニックネーム 由姫 at 21:11| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年05月01日

気になって仕方がない! ――B Side


最近、彼のことばかり見てしまう。見たくないのに、見てしまうのだ。
席が前後なものだから、どうしても目がそっちに行く。

ああ、見ているだけで胸がきゅっとして、顔が熱くなる。手で触れてしまいたい。でも、ダメダメ。そんな事、できない。

なんだか自分が彼をストーキングしてるみたい。嫌だな。最近、ずっと見ていると突然振り向いてきたりするようになったし。やっぱり気付いているよね……。

でも、でも、でも!どうしても見てしまうんだよ!




彼のサラサラの髪の毛!!!



誰にも言った事ないけど、私はもの凄い髪フェチだから。あの、女子でも滅多にいないサラ髪をみると、もうたまらない。う〜…。


ああ、もうこの気持ちをどうすればよいのやら。

……こんなに気になって仕方がないというのに。




end.


Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 20:05| Comment(2) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年04月30日

気になって仕方がない! ――A Side


なんなんだ、なんなんだ。

俺の背中に突き刺さる視線。じわじわとくる熱気。おいおいおい。
なんだよこの視線は。授業に集中できないだろ?

我慢できなくなってガバッと振り向くと、あいつはすぐさま横を向いて「私は今まで窓の外を見ていたのよ?」といった表情。全く……。

始まりは2週間ほど前。どこかから視線を感じるようになったのだ。その犯人があいつ。さっと振り向けばいつも目が合った。
で、最近の席替えであいつは俺の後ろの席になってしまい、ますます視線が感じられるようになってしまったってわけ。

友達は「お前の事好きなんじゃね?」とかなんとか言ってたけど、本当かな?あいつ結構可愛いから、それはそれで嬉しいけどなぁ。

でも、この視線は嫌だな。ああ、なんとかならないのか。
なんでもいいから、この視線の理由をはっきりしてほしい。

このままじゃ、気になってしょうがないじゃないか!



B Sideへ



Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 21:26| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年04月24日

距離を縮めたい理由なんか知るかよ


「……何よ」

「え?」

気が付くと、コイツはいつもニコニコして、頬杖をついて私を見ている。
全く、何?何なの?…どうせそう聞いても、別にー?ただみたいから見てるんだしーって言うだけ。

「何してるの?」

「え、本読んでるんだけど?」

見てわかるでしょ。

「そっか、じゃあ俺も本読もう!」

「え?え?何で?」

私の言葉を無視して、あいつは本棚から適当に本を選んで持ってきた。
で、隣の席にどっすん。

「…そこあんたの席じゃないでしょ」

「お前の隣はいつでも俺の席♪だろ?」

そして満面のスマイル。ぎゃあぁ!叫びそうになるのを必死にこらえた。顔が赤くなる。な、な、なんて…なんてくっさいことをこんなにも平気で言えるのか!?それに違うし!

「やっぱ私ついていけない…」

「何が?」

「もういいって……」

なんかこいつの相手していると、疲れるわ。ストレスで白髪が生えそう。






「なあ」

「ん?」

「好きだよ。お前のこと」

「…あのね、ここはクラスメートだらけの教室だっつうの!恥ずかしいから!」

「だってー愛情表現は確実にしていたいだろ?」



また、スマイル。

……しばらくは、この状態が続きそうだ。





end.


Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 20:24| Comment(1) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年04月22日

純潔少年



夕焼けが、頬にあたって朱にそまっていた。
静かな教室で、机に突っ伏して居眠りしてた君。

白い肌、薄い唇、端正な顔立ち。全てが、私にとっての憧れだった。

「あのさー彼女とか、いないの?」

時々チラッと聞いてみた。でも、すぐに「いるわけないだろ?俺、いままで彼女いたことないから」と笑って流された。



「……起きてる?」

そっと、語りかけてみる。返事はない。居眠りのつもりで、熟睡してしまっているようだ。

――いまなら、ちょっとチャンスかも?脳裏によぎるいけない思考。ダメダメ。そんな事考えちゃ。でも、でも。足は、じわじわと彼の机に向かって行く。

近くまで来ると、彼の寝息がスースーと聞こえてクスリと笑ってしまった。可愛い奴。

今なら、肩を叩いて「起きて」といえば、あっさり起きるかもしれない。でも、顔に落書きしても、起きないかもしれない。


……ばれない、よね。生唾を飲んで、彼の寝顔を見つめた。

まだ、彼は誰ともキスしてないんだよ、ね?心臓が鐘のようにガンガンと鳴り出した。そっと、そっと彼の顔に近づいていく。


そして、軽く、キスをした。



顔が熱くなって、心臓が今にも飛び出しそう。やっちゃったやっちゃった。
でも、彼は気づいてない。よかった。

パッと唇を離し、走り去ろうとしたけどやめた。足音で起こしたら嫌だから。
でも、できるだけ足早に立ち去ろうとした。


「…奪われちゃったな」


ドキ。…それは、教室を出るまであと5歩の時だった。

「俺のファーストキス。やってくれたな」

振り返れない。体の芯が地面に突き刺さったよう。


「こっち見ろよ。責任、とってもらおっかな?」


彼との距離、あと、5m。


end.


Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 21:06| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年04月15日

それでもキミは振り向かない


「へへ、負けちゃった」

そう言って頭をかいて、苦笑いをしていた。
全国大会出場がかかった決勝戦で、彼女達は敗れた。それも、ボロボロに。

「レベルが違ったんだよ、私達」

彼女はチームメイトを見下ろした。皆崩れ落ちて、泣いている。

「まあ、まだチャンスはあるし。頑張らなきゃね」

「お前な……」

「何よ」

「よく泣かないな〜」

俺がそう言うと、「えっ?」っと驚いた顔をした。が、しかし、すぐニヤニヤと笑い出した。

「だって〜ワタクシは男の子ですもの〜」

「おいおい、冗談言うなって」

「へっへっへ!」

彼女は変な声で笑って、俺にさっと背を向けた。


「……転校、するんだ〜」

その言葉を聞いた瞬間、俺の体は凍りついた。転校、転校、転校……。頭の中にエコーするその単語。

「ま、マジ?」

「うんっ!だから、泣いてお終いはっ嫌なのっ」

彼女は背を向けているから、顔はわからなかった。でも、きっと、笑ってはいないだろうと解っていた。

「さよなら、だよ。皆と。遠いところに行くから」

「…また会えるのか?」

「さあ、わからない。多分、ない」

彼女の口調から、もう彼女がこの地での未練全てを振り切っていることを知った。

「じゃあ、最後に握手でもしよっか」

俺が勇気を出して言うと、彼女はやっと振り向いた。

「OK。わかった」

差し出された手は、白く、細く、温かった。


「バイバイ」



end・


Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 21:09| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年04月06日

空想空間をレイアウト


「おーい」

手を顔の前でブンブン振ってみせる。

「んー?」

あいつは、ボーっと空を見上げたまま。

「何考えてんだよー」

「あのねー好きな人とデートするならどこ行こうかなーって」

「へぇ〜……」

好きな人…ね。察すれば、俺は好きな人じゃないって事ね。はぁ。

「あ、そうだ。水族館がいーな。水のゆらゆら感がいいし」

そう言って、手首をフラフラとさせる。こいつ、目がだんだん空想の世界に浸ってきてるぞ。

「よし!」

「は?」

「では早速、シュミレーションに出発しよう!いい?『仮好きな人A』!」

「はぁ?」

手首をガシっとつかまれ、そのまま引っ張られるように歩き出す。


…まあ、しかたがない。しばらくは『仮好きな人A』で過ごして、本当の気持ちに気づいてもらえるまで待つか。

それは、程遠い目標だった。



end.


Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 18:00| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年03月31日

咲き誇る白い花の名は、


その歌声は、どこまでも澄んでいた。高く、もっと高く――

『ワタシノナミダヲトメテクダサイ……キミニデキマスカ』

そんな歌詞が心に染みた。彼女はそれを歌っているだけだろうけど、俺は彼女が涙を流したならばに本当に助けに行こうと思ったぐらいだ。



それは、隣町であった有名音楽コンクールでの事だった。
友達のハルキがそのコンクールに出場することになったので、その応援に無理やり連れて行かれたんだ。

元々音楽とかには興味がなかった。まあ、嫌いではなかったけど。でも、友達の晴れの舞台だったから、しかたなく行ったわけ。

そして、彼女を見た。

息をスッと吸った音がマイクに入って、静かなホールに響いて。


……その後は、頭が真っ白になりそうだった。



プログラムの半分を終了させた後のロビーはざわざわとしていた。
俺は、いつのまにかハルキのことを忘れ、彼女の姿を捜していた。


――高く青く光るあの空より――

耳の中に聞こえるか細い歌声。確信があった。

――白い露に濡れて咲く花――


ざわめきの中ではっきりと見据えた白いドレス。

「……その歌、エーデルワイスって言うんだっけ」

俺が言うと、彼女はちょっとおどろいた顔をして俺を見た。
でも、すぐに優しく微笑んだ。

「知ってる?私、この歌好きなんだ」


その時の君は、まさに山の高きに咲くエーデルワイスだったよ。
と、言うのは、あと4ヵ月後の話。



end.


Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 23:02| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年03月28日

夢の無い子供たち

「なあなあ、今日の山羊座、bP星座だったんだぜ!」

「…ふーん」

「で、ラッキーカラーは青!お前にピッタリじゃん」

「…ん。そう」

「……」

反応が薄い。いつもの事。
こいつ、占いだとかジンクスだとか、普通女の子が好きなことが嫌いらしい。
現実的なんだよな。夢がないっていうか。

「そうだ、この前のテレビ見たか?『奇跡の超能力捜査!』」

「あんなの嘘っぱちよ」

こいつはそう言いながら、「実用英会話法」とかなんとか書かれた字がとてつもなく小さい本を気だるそうに読んでいる。

「う〜ん、お前の好きなことって、何よ?」

「そうだね……」

彼女はまた気だるそうに俺を見た。

「こうしている事かな」

「え?」

驚きで一瞬呼吸が止まった。


「私が本を読んでいて、隣で君が話してる。私はそれがいい。いつも気にかけてくれて、ありがとう。冷たくしててゴメンね」


その時の微笑みは、たぶん一生忘れないだろうと思う。



end.


Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 21:35| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年03月27日

いつか、あの手を掴める日が来ますように。

その手は、暖かかった。
たぶん、偶然だったんだろう。すれ違った、あの瞬間。

手と手が、確かに触れた。

暖かく、たくましい手が、私の手に触れていた。
驚く心臓を抑えて振り向いた時には、彼の姿は消えていたけど。



前から、彼の事は気になっていて、目で追っていた。
でも、こんなに気持ちが高まったのは、初めて。頬が熱かった。

いつも部活頑張っていた君だから。汗を流していた君だから。
あんなに優しい手をしていたんだと思う。


ほら、今だって優しそうに笑ってる。

だからそっと目を閉じて、思う。
今度あの手に触れたときは、そっと、その手を握ろう。



いつか、あの手を掴める日が来ますように。




end.


Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 21:24| Comment(1) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年03月26日

リクエストどうぞ。

人が慌しく歩いている街の中、俺達は歩いている。

「ね、どこ行くの?」

俺の顔を覗き込んでくる。大きな目に俺の姿が映っていた。

「そーだな〜。そこの店入ろう」

返事を聞かずに歩き出す。こいつは、俺の行きたいところにいつでもついてきてくれるから。
扉を開けると、チリリンとベルが優しくなった。うん、なかなか洒落た喫茶店だ。

「コーヒー2つ。あと、日替わりケーキも」

注文をすると、品はすぐにやって来た。

「じゃ、食べよーぜ?」

「……」

「どうした?」

「え、あ、いや…。大丈夫だよ」

その時は慌てて笑顔を取り繕っていたけど、やっぱり様子がおかしかった。
俺の話に相槌をついてはいるが、頭に入っていそうにない。窓の外を頬杖ついて見つめ、なんとも儚い表情だった。
俺はたちまち不安になった。俺のこと、嫌いになったんだろうか。でも、本当に不安そうだったのは、彼女のほうだったのかもしれない。


…ふと、思った。俺は、自己中なのかもしれない。

こいつの意見、あんまり聞いた事がない。いつも俺が喋ってて、こいつがそれに従ってるって感じ。

「…なあ」

「え?」

「お前、何かしたいことあるか?」

「えっ、と……」

彼女は、しばらく黙っていた。

「…いいの?」

「もちろん。俺はお前のしたいことをするぞ?」

「……うん!」


その後にあいつは泣きそうな笑顔になって、「ありがとう」を言った。



end.



Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 19:15| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年03月25日

進化させたい、させたくない?

なんか今、頭の中で赤信号がチカチカ光ってます。

「さーて……どうしちゃおっかな〜」

目の前にはあいつのドアップ。う、うわ〜どうしよう。

話を戻せば5分前。私は彼に告白された。
いや、普通ならときめく場面なんだけどね。こいつとは小学校からずっと一緒の悪友って感じだったから。
私っていまいちそういう場面に弱い。だから、つい。「好きだ」っていったこいつのこと、「バカーー!冗談言うな!!!」って顔面パンチ。
あ、やばい!と思った時は既に遅し。
こうやって、壁に追い詰められてしまったわけだ。

「真剣に告白した男を殴るとはいい度胸だな〜お前」

「…ごめん」

2人きりの教室に、私の声が響いている。

「ま、お前はそんな性格だもんな」

私にかぶさる影が、心なしか大きくなっていた。


「…お前俺のこと好きか?」

「え!?」

「嫌いか?俺のこと。正直に言ってくれよ?」

あいつの綺麗な眉がひそめられる。なんかその時のあいつの顔…変な言い方すると色気があった。こんな表情見たことがなかった。バクバクする心臓。

「えと、んと、あの……友達以上恋人未満って感じかな」

なんとか搾り出した答え。でも、あいつはそれだけじゃ納得しなかった。

「はっきりしないな」

「ぁ……」

あいつの顔がどんどん近づいてくる。

「俺を恋人まで進化させたい?それともこのまま?」

囁く息が、唇に当たっていた。

…二人の距離、あと3センチ。



end.


Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 20:50| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年03月24日

可愛いワガママでも聞いてあげるとしますか

「じゃー俺もう行くから」

鞄を肩にかけ、扉に手をかける。

「あっ、いやっ待って!」

ぎゅっと袖をつかまれた。ふう、とため息をついて振り向くと、やっぱり。ほっぺを膨らませて、寂しそうな顔。

「……なんだよも〜」

「だって、まだ宿題終わってないもん。教えてくれるって約束したじゃん!」

「俺だって自分の宿題があるんです!」

「いーじゃんもう高校生なんだから!私は受験生だよ?」

「……はいはいわかりました」

「♪」

強気に言われると、どうも弱い俺。年下だからって、甘えさせすぎだと思うよなー。全くワガママな彼女を持ってしまったな。

付き合い始めて早一年。俺は高校生になり、こいつは受験生。
こいつ、俺が県でトップレベルの高校に受かったと聞いたとたんに「あたしもその高校行く!」なんて言い出して、猛勉強を始めたんだ。ワガママ言っても、これだけば自分の力じゃないとダメだものな。
でも、俺が部活ない日はこいつの家庭教師をするって約束うっかりしちゃったから大変なんだよ〜。正直俺の成績が落ちそうで怖い。

「ねえねえ」

「んだよ」

「もし同じ高校に合格できたらさ」

「うん」

「絶対一緒に学校行こうねっ」

「……」

全く。どうも俺はこの笑顔に弱い。
しょうがない、今年は頑張ってこいつの勉強に付き合ってやるか。



end.



Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 21:08| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年03月23日

さよならで始まる恋。

涙で濡れ、紅潮した頬。涙声なのに、無理してはにかんでいて。

「いままでありがとう」

そう言った時、また雫がこぼれていたっけ。

「さよならっ…ま……た…っ」

最後の方は声が震えていて聞き取れなかった。お、おい、どうしたんだよ。言いながら手を差し伸べたが、その手に応えることはなかった。

涙をポロポロこぼしながら、お前は笑ったな。そして、静かに首を振って、友達の所に走り去っていったっけ。桜の木の下で、俺は呆然としてた。

後から聞いたら、お前、俺のこと好きだったんだな。前からずっと、片思いで。気づかなくて、ごめんな。
でも、もっと謝ることがある。


あのお前を見て、惚れちゃったよ。

きっと聞いたら怒るだろ?だけど、いつかまた会えたら、このことをお前に伝えたいんだ。お前もあの時、「また会おう」って言おうとしてただろ?

それに、とってあるんだ。第2ボタン。

いつか会えたら、お前に笑って渡すから。

その時、お前はどんな顔をするだろうか?




end.


Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 21:58| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】

2008年03月22日

謝るくらいなら傷つけるな

「ごめん!」

俺は腰を90度下げて、ユウに謝った。

「なーにが?」

ユウの奴、腕をがっしり組んで、俺を見下した視線を向けている。ふん、俺より頭一個小さいくせに。

「…待ち合わせに1時間遅れたことです」

「あら、どうしてかなー?」

「……ぼう」

「ん?ごめん聞こえないなー」

「寝坊しました!!」

「そーですかそーですか」

わざとらしく首をうんうんと頷いてみせる。やば、かなり怒ってるかも。

「…まあ許そう。ワタクシは心が広いので!」

まだ頬を膨らませながらも、ユウは俺に手を差し出した。俺は頭を上げ、その手を握る。

冷たい。ユウの手は、もうすぐ春だというのに冷えていた。
…俺のこと、ずっと外で待っててくれたからだよな。寒いのに、手が冷たくなるほど立ちつづけて。

「本当にゴメンな」

俺はまたそう言って、ユウの手を強く握った。もう、ユウを待たせるようなことはやめようと誓いながら。


end.



Title by…架空少年
ニックネーム 由姫 at 22:01| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】