「まだ、来ないのかな……」
静かな部屋の真ん中に、湯気がもやもやとたっている。ため息をついたら、それが一瞬揺らぎ、また元に戻る。
2つのマグカップにはコーヒーが入っていて、片方はもう半分しか残っていない。今は夏なのに、コーヒーはホットだ。別にそれほどこだわりはないけど、この湯気の感じが好きだから。
彼はまだ帰ってこない。彼が「ちょっと食べ物調達してくるわー」と言って家を出たのは16分前。何が食べたい?と聞かれたから、ドーナツ、とだけ答えておいた。たしか駅前のミスドはこの時間帯は空いているはず。彼は私の好きなドーナツを買ってきてくれるだろうか。チョコのたっぷりかかったドーナツ。甘くて、これがまたコーヒーの苦味と絶妙に合うんだよな。
……考え事をしていたら、もう25分も立ってしまった。なんで帰ってこないんだろう。心配が胸をきゅっと締め付ける。
知らず知らず体は立ち上がり、玄関のドアを開ける。小走りで駅前に向かう。
「……いた!」
彼はミスドの前のベンチでボーっと座っていた。私が小走りでやってくるのをみると、なんだか申し訳なさそうに笑った。私は少し荒くなった息を落ち着かせながら、彼の隣に座る。
「どうして帰ってこなかったの」
「いや、それがさ……ないんだよね、あれが」
「何が?」
「あのチョコのかかったドーナツ。今品切れしちゃってて。で、今作っているんだって。だから、待ってた」
「そこまで…しなくてもよかったのに」
「でも、俺もちょうどそれ食いたかったんだよ」
彼は照れくさそうに頭をかいた。おとなしく店内でまってればよかったのに。こんなに額に汗をかいて。
結局、私も一緒にドーナツを待つことにした。日差しが暑かったけど、彼と一緒にいれば十分楽しかった。
……あ。
コーヒー、もう冷めちゃったかな。
end.










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