2008年06月03日

歩調合わせてよ


「……ちょっと」

「ん?」

あいつは気だるそうに振り返る。

「足、速いんですけど」

ついさっきまで隣で歩いていたのに。あっというまに1メートルの差。
こいつは凄い足が長い。だから、歩幅がありえないほどに大きいのだ。
それに対し私は中肉中背。彼の歩幅に合わせようと大またに歩いても、追いつききれないのだ。

「ああ、ごめんごめん。なんか、つい」

苦笑いしながら私が追いつくまで止まっている。なんか、腹立つな。前からこれ、何回も繰り返すんだもん。

「あのさー」

「何?」

「少しは勉強してくれないかな」

「何を?」

「もう少しゆっくり歩くってこと!」

私が少し怒って彼を睨むと、彼は眉をちょっと傾けて笑った。

「だって、恥ずかしいだろ」

「は?何が?」

「俺達なんか、彼氏と彼女みたいにみえるじゃんか」
 
「え」

硬直。え、そんな風に見える?だったらちょっと嬉しい……って何考えてるんだ私。頭に浮かんだ空想を振り切ってみせる。

「でも、まあいいよ。お前が並んで歩きたいっていうなら。俺はこれからちゃんとあわせるよ」

なんだか憂いをおびた笑顔が胸をきゅっと締め付ける。

「うん…ありがと」


……これからは、私も背をのばす努力をしようかしら。




end.
ニックネーム 由姫 at 20:57| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: