2008年05月28日

雨の中、二人

ザバザバザバーー!!!
信じられないほどの土砂降りに、叫びながら近くの公園の木の下に逃げ込むしかなかった。

「イヤー!何で雨なんか降るのー?」

いくら木の下と言えど、葉っぱと葉っぱの間を伝った大粒が、ちらほらと落ちてくる。まだ梅雨入りには早いと思ってたんだけどね。悲惨だよ、悲惨。暑いしジメジメしてるし。

「しらねーよ。さっきから空模様悪かったし、なんとなくわかってたじゃん」

私の隣で彼は、部活用のエナメルバックからタオルを取り出して、空を見上げている。
彼は背が高い。しかも部活ではエース。同じクラスだから、よく前から話してはいた。
でも、一緒に帰ることになったのは、これが初めて。理由は、ほんとに、ちょっとしたこと。他愛もなさすぎて、話したくないほど。

「あ、私もなんか拭くもの――ってあぁぁぁあ!」

ポケットから取り出したミニタオルは、悲しくも、泥でべチャべチャの水溜りへ真っ直ぐダイブ。白いミニタオルが。茶色いミニタオルに。

「う、わ。最悪」

汚くなったミニタオルの端をつまんでいると、肩に長いタオルが軽くかかる。
彼のスポーツタオルだった。心なしか、暖かい。
驚いて彼を見ると、彼は照れ気味に言い捨てた。

「俺はいいから、使えよ」

「え、でも」

「いいから」

自分の髪から雫を落としながら、彼は濡れてしまった眼鏡を取って袖で拭いている。私はそれをじっと見つめていたが、彼が突然「あっ」と言ったため、ビクッと肩を震わせた。

「…言っとくけど、においとか嗅ぐなよ」

「は?何でよ」

「だっ……だって、汗臭いだろうから……」

最後の方はもごもごして聞き取れなかったが、何が言いたいかはよくわかった。コイツ、可愛い奴じゃない?こんなに耳真っ赤にしちゃって。

「わかったよ」

私はタオルで濡れた腕などの雨粒を拭き取る。その様子を、彼は黙って見ていた。

「あ、そうだ」

不意に、思い出すこと。

「続き、やろうよ」

「あーそうだな。まだ、途中だったっけ」

「えーっと確か、『オーストラリア』で止まってたよね」

そう、私達はしりとりをしていたのだ。お互いしりとりの負け知らずを自負するだけあって、もの凄く長引いているけれど。途中で中断するのがあまりに歯がゆかったから、一緒に帰ってきたのだ。

「うーんと、ア…ア…。『アイス』。ほら、次『す』で始まる言葉だよ」

私が言うと、彼は首を傾げ、「『す』で始まる言葉まだあったっけ?」と唸っている。なんだか、こんな時でもしりとりができるなんて、我ながら凄いって感じ。どうして、こんなに自然に彼と一緒にいられるのだろう。

「あ、あった」

「何?」

「好き」

一瞬だけ雨の音が聞こえなくなる。彼の頬が紅く染まっていくのがスローモーションでわかる。私はその瞬間の鼓動に身をまかせ、『き』で始まる言葉を続けた。

「『キミが好き』」




end.



ニックネーム 由姫 at 21:11| Comment(0) | 夕立後に会いましょう【短編集】
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