本日の予想最高気温は三十六度。メガネのおじさんは確かにテレビの中で言っていたのに、それは嘘だったのだろうか。いや、そんなことはない。その周りの人や俺自身は、汗がだらだらと首を伝い、べとべとだ。大体、この真夏に剣道をやって、汗をかかないわけがない。
しかしこの道場の中一人だけ、汗一つかいていない子がいた。日焼けを知らないかのような白い肌が、周りの日焼けした小さな子供達の中でとてもよく目立っている。初めて見る顔だった。
「お姉ちゃんお姉ちゃん、もう一回やってー!」
小学生低学年ぐらいの子供達が、彼女を取り囲んで、何かをせがんでいるらしい。彼女はちょっと照れた微笑みを見せ、竹刀を握りなおした。
「しょうがないなぁ。あと一回だけね?皆下がって」
彼女が打ち込み用の人形の前に立ち、スッと構える。見ていてすぐにわかる。あの子、絶対に強い。相手の喉元を真っ直ぐに捕らえた剣先、なめらかな曲線を描く肩。美しい構えだ。
「やっ!」
気合のこもった短い声を出すと、一瞬で真剣な顔つきに変わる。同時に、周りの雰囲気も変化した。大きく踏み込んだ右足が、サッと床と擦れて音を立てる。振りかぶった竹刀は、剣筋が返り、的確に人形の胴を狙っていた。
「胴!」
バコーン!!と、見事に決まった音が道場に響いた。「わー!」とはしゃぐ子供達。
「今のはいい胴だなぁ」
道場に稽古に来ているおじさん達は、顔を見合わせていた。
あの子は一体何者なんだろう?










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