信じられないほどの土砂降りに、叫びながら近くの公園の木の下に逃げ込むしかなかった。
「イヤー!何で雨なんか降るのー?」
いくら木の下と言えど、葉っぱと葉っぱの間を伝った大粒が、ちらほらと落ちてくる。まだ梅雨入りには早いと思ってたんだけどね。悲惨だよ、悲惨。暑いしジメジメしてるし。
「しらねーよ。さっきから空模様悪かったし、なんとなくわかってたじゃん」
私の隣で彼は、部活用のエナメルバックからタオルを取り出して、空を見上げている。
彼は背が高い。しかも部活ではエース。同じクラスだから、よく前から話してはいた。
でも、一緒に帰ることになったのは、これが初めて。理由は、ほんとに、ちょっとしたこと。他愛もなさすぎて、話したくないほど。
「あ、私もなんか拭くもの――ってあぁぁぁあ!」
ポケットから取り出したミニタオルは、悲しくも、泥でべチャべチャの水溜りへ真っ直ぐダイブ。白いミニタオルが。茶色いミニタオルに。
「う、わ。最悪」
汚くなったミニタオルの端をつまんでいると、肩に長いタオルが軽くかかる。
彼のスポーツタオルだった。心なしか、暖かい。
驚いて彼を見ると、彼は照れ気味に言い捨てた。
「俺はいいから、使えよ」
「え、でも」
「いいから」
自分の髪から雫を落としながら、彼は濡れてしまった眼鏡を取って袖で拭いている。私はそれをじっと見つめていたが、彼が突然「あっ」と言ったため、ビクッと肩を震わせた。
「…言っとくけど、においとか嗅ぐなよ」
「は?何でよ」
「だっ……だって、汗臭いだろうから……」
最後の方はもごもごして聞き取れなかったが、何が言いたいかはよくわかった。コイツ、可愛い奴じゃない?こんなに耳真っ赤にしちゃって。
「わかったよ」
私はタオルで濡れた腕などの雨粒を拭き取る。その様子を、彼は黙って見ていた。
「あ、そうだ」
不意に、思い出すこと。
「続き、やろうよ」
「あーそうだな。まだ、途中だったっけ」
「えーっと確か、『オーストラリア』で止まってたよね」
そう、私達はしりとりをしていたのだ。お互いしりとりの負け知らずを自負するだけあって、もの凄く長引いているけれど。途中で中断するのがあまりに歯がゆかったから、一緒に帰ってきたのだ。
「うーんと、ア…ア…。『アイス』。ほら、次『す』で始まる言葉だよ」
私が言うと、彼は首を傾げ、「『す』で始まる言葉まだあったっけ?」と唸っている。なんだか、こんな時でもしりとりができるなんて、我ながら凄いって感じ。どうして、こんなに自然に彼と一緒にいられるのだろう。
「あ、あった」
「何?」
「好き」
一瞬だけ雨の音が聞こえなくなる。彼の頬が紅く染まっていくのがスローモーションでわかる。私はその瞬間の鼓動に身をまかせ、『き』で始まる言葉を続けた。
「『キミが好き』」
end.










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