「はぁ〜あ。なーんてくだらないことをしているのか」
伊佐吹弥生は形の良い唇から甘いため息を漏らした。
今俺達はディベートを行っているところだ。これは開帝学院では2週間に1度は必ず行われることである。今回のテーマは「森林伐採について」。
「坂本くん。あなたもそう思わない?」
弥生が俺を見つめてくる。チクショウ。周りの男子の視線が痛い。
弥生は誰が見ても必ず認めるであろう
美人である。女子高校生らしいメイクなんてしなくても完璧なのだ。
だから俺が弥生の隣にいると、周りの男子の賛美の視線がとても痛い。無論、弥生の性格を承知してだ。お前らバカかと言いたい。俺と場所を代わっていいならいつでもいい。ただし、弥生がそれを許すなら。
「……俺は意見を主張しあう事は大事だと思うよ」
まあ、それが目的でやっているんだし。
「ああ。そういうわけじゃないの」
弥生は鼻でフンと笑う。
「この私を混ぜてディベートするなんて、私が圧勝するに決まってる。だからくだらないって言っているの。そうでしょ?」
「……」
「あ、そーだ。この話って、要するに紙を無駄遣いするなってことでしょ?じゃあね…
ゴミ箱に紙を捨てるのは勿体無いから、坂本くん食べな」
「無理」
俺が即答すると、弥生は頬を膨らませ、不服そうな顔をした。
「仕方ないなー……。あ、議長、発言してもよろしいかしら?」
突然の弥生の挙手に、俺もクラス全体もどよめいた(その中の大半は、男女共に弥生ファンクラブだった。と言うかもはやクラスのほとんどは弥生の手下…いや、ファンである)。
「あ、あ、はい。では、伊佐吹さんどうぞ」
議長が慌てて指名をする。もちろん、伊佐吹と言う部分はやけに丁寧に。
コホンと咳をして、弥生は立ち上がった。
「私、この問題を解決するためのよい方法を思いつきましたの。それは『余った紙を髪にする』という方法です。今週末までにそれをお見せしますから、今日はディベートをここまでにしません?」
紙を髪にする…?俺は自信満々の顔をしている弥生を見上げた。
あ!!思い出して大声を出しそうになった。
弥生は…弥生はあの力を使うのか……。
1週間後。俺達の前に凄いものが現れた。それは…。
「これが、IZABUKIグループ開発の新しい
ウィッグです」
カツラ。である。
「あ、あのっ!伊佐吹さま、これはどういう意味でしょうか??」
弥生ファンの女子が言う。弥生は(ナイスなタイミングで質問ありがとう)といった顔で微笑む。
「簡単なことです。このウィッグは
素材の80%が無駄な紙。先日私が商品開発部に依頼したの。皆さんの賛同が得られれば、実際に市場に出回ると思いますわ」
おおっ!と皆が驚嘆の声をあげた。弥生くん、すばらしい!伊佐吹さま、さすがです〜!黄色い声まで混じっている。
そう。伊佐吹弥生は、IZABUKIグループと言う大企業の会長令嬢である。だから、彼女はいくつもの会社の経営権を握っているも同じ状態なのだ。それでいて、その会社の利益がもの凄いっていうのだから、本当に天才である。
「なあ」
「何?」
皆の間をすり抜け、弥生に話し掛ける。
「何でわざわざこんなことしたんだ?」
弥生はニッコリと笑った。
「ディベートが面倒だったから。それだけよ」
…恐ろしいやつだ。
ちなみに。
弥生が開発を指示したそのウィッグは本当に市場に出て、大ヒットした。
…本当に恐ろしいのだ。